「赤朽葉家の伝説」

■感想メモ。
「赤朽葉家の伝説」(桜庭一樹・東京創元社)
赤朽葉家の伝説
 「山の民」に置き去られた赤ん坊。この子は村の若夫婦に引き取られ、のちには製鉄業で財を成した旧家赤朽葉家に望まれて輿入れし、赤朽葉家の「千里眼奥様」と呼ばれることになる。これが、わたしの祖母である赤朽葉万葉だ。――千里眼の祖母、漫画家の母、そしてニートのわたし。高度経済成長、バブル崩壊を経て平成の世に至る現代史を背景に、鳥取の旧家に生きる3代の女たち、そして彼女たちを取り巻く不思議な一族の血脈を比類ない筆致で鮮やかに描き上げた渾身の雄編。

 緩やかに時が流れ、徐々に変化していく村を舞台に、3代に渡る女性たちを描いたお話。
 万葉の時代はまだ神秘があって、知らない時代なのにどこか懐かしくいとしい。全体でみれば、この時代が一番良かったような気がしました。万葉もそうですが、タツの存在による安心感が凄い。
 毛毬の時代は私の知る時代に徐々に近づいてくるのですが、彼女の生き方もあってか漫画的だなぁと思いました。毛毬自身よりも万葉の抱えた悲しみの方に目が行きがちでした。
 語り手たる瞳子になると神秘さも漫画っぽさもなく、ずいぶんと肩すかし。急にミステリー風になってくるのも首をかしげる部分でした。最後だけ少し物足りなくて、惜しいなぁと思う作品でした。

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「戦士志願」

■感想メモ。
「戦士志願」(ロイス・マクマスター・ビジョルド・創元SF文庫)
戦士志願
 貴族に生まれながら、生来の身体的ハンデのため士官学校への道を閉ざされた17歳のマイルズ。一度は絶望の淵に立たされた彼だったが、とある事情で旧式の貨物船を入手、身分を偽り、戦乱渦巻くタウ・ヴェルデ星系へと乗り出した。だがさすがの彼も予期していなかった、ぬきさしならぬ状況下で実戦を指揮することになろうとは。

 シリーズ第1弾。
 翻訳ものを読むときには時間がかかる方なのですが、分厚さも相まって、読み終わるまでかなりかかりました。それでも最後まで惹きつけられる力を持った作品でした。
 まず主人公の挫折からはじまり、転機となるところまでが長く平坦にも感じられましたが、そこを超えるとどんでん返しが面白くなっていきます。口八丁で傭兵隊をでっちあげてしまって、いったいばれたらどうするの!?とひやひや。万事が上手くいくことはなく、躓いて倒れたり、また立ちあがって進んでいく主人公が良いです。別離の苦さ、切なさを噛みしめつつも、最後は収まるべきところにきちんと収まる読後感の良さ。登場人物たちのその後が素直に気になる作品でした。

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「チャリオンの影(下)」

■感想メモ。
「チャリオンの影(下)」(ロイス・マスクスター・ビジョルド・創元推理文庫)
チャリオンの影 下 (創元推理文庫)
 権力を独占するため、国姫イセーレとの政略結婚を企む宰相一派。それを阻止すべくカザリルが取った手段は死の魔術だった。代償として神の守護と死の呪いを身に宿すことになった彼は、チャリオン国主一族を覆う恐るべき呪詛の正体を知る。果たしてカザリルはイセーレと故国チャリオンを救うことができるのか。

 下巻でのめまぐるしいストーリー展開に息つく暇なく読了。これは面白い。
 神の思惑に悩み振り回され、いつ訪れるか分からない死に恐怖しつつも、イセーレのために尽くすカザリル。その裏で15歳年下の女官ベトリスへのほのかな想いが……なかなか純情なおじさんですね(笑)。障害が取り除かれて後の予想の斜め上の愛情表現に笑い(パリのコメントが秀逸)、ベトリスの「ちゃんとあごがありましてよ!」に爆笑。シリアスで重苦しい展開が主だっただけに、ラストあたりのどたばたが微笑ましかったです。
 隣国との駆け引き、宰相との騙しあい、そして神はどこまで運命を操ったのか……。謎だったことがするすると解けていく終盤が気持ちいい。ぐいぐい読ませる力のある作品でした。あー、面白かった!

肷

「チャリオンの影(上)」

■感想メモ。
「チャリオンの影(上)」(ロイス・マスクスター・ビジョルド・創元推理文庫)
チャリオンの影 上 (創元推理文庫)
 戦の末に敵国の奴隷となり、身も心もぼろぼろになって故国にもどってきたカザリル。運良く少年のころに仕えたバオシア藩で、国主の妹イセーレの教育係兼家令に任ぜられた。だが、イセーレが弟と共に宮廷に出仕することになったため、カザリルも否応なしに陰謀の渦に巻き込まれることに……。

 上下巻の上巻。
 冒頭からのカザリルのボロボロっぷり(と服を調達した手段)に戸惑いつつ、藩妃のもとを訪れるあたりから徐々に面白くなっていきます。カザリルの教え子でもあるイセーレと女官のベトリスが可愛い。そして15歳年下(※ベトリス)にときめいてしまって「15歳差はOKなのか」うっかり聞きそうになるカザリルさん35歳。ベトリスが四十路のおっさんにセクハラされたと聞いた時に羽根ペンをへし折ってしまったのに笑いました。
 主人公が万能ではなくて、周囲に嫌がらせされても抑え気味なのは大人ならでは、でしょうか。どんどんへたれていくわけですが、最後の最後、最終手段だけは思い切りがいいというか良すぎると言うか……。神様の設定としっかり絡み合った現状が面白い。宮廷陰謀劇もどうなるんでしょう。下巻も楽しみです。

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「初恋よ、さよならのキスをしよう」

■今日読んだ本メモ1。
「初恋よ、さよならのキスをしよう」(樋口有介・創元推理文庫)
初恋よ、さよならのキスをしよう初恋よ、さよならのキスをしよう
 娘と訪れたスキー場で、柚木草平は高校時代の初恋の女性・卯月美可子と20年ぶりに出会う。以前と変わらない美貌のまま、雑貨店オーナーとして活躍していた彼女が、再開後まもなく何者かに殺害される。美可子の姪から事件の調査を依頼された柚木は、高校の同級生を順に訪ねていくが……。
 シリーズ第2弾。
 今回は被害者も容疑者も主人公の同級生。高校時代は仲良しグループから距離を置いていた柚木が、20年を経てその人間関係を紐解いていくのが主な話の流れで、犯人当てとかトリックとか微妙にいい関係になりそうだった依頼者は二の次といった印象でした。というか、真相がぽん、と出されて面食らってしまいました。依頼者も扱いが最後まで宙ぶらりん。
 同じ人物のことでも、見ている人物が男か女かでこんなに見え方が違うんだなぁとしみじみ。「仲良しグループ」の真実とその歪み。あのままの関係を続けるよりは、壊れてしまった方が良かったのかなと思ってしまいました。

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「ゼンダ城の虜」

■今日読んだ本メモ。
「ゼンダ城の虜」(アンソニー・ホープ・創元推理文庫)
ゼンダ城の虜ゼンダ城の虜
 戴冠式を目前に控えたルリタニア王国に漂う陰謀と邪恋の暗雲。王位の簒奪を狙う王弟ミヒャエル大公とヘンツオ伯爵。風雲急を告げる王国の渦中に偶然飛び込んだ国王に瓜二つの英国の快男子ラッセンディルの数奇な三ヶ月の大冒険。
 ――という表題作(第一部)のほか、後日談である第二部「ヘンツオ伯爵」が収録された、読み応えのある本でした。
 王弟により毒を盛られ、ゼンダ城に囚われてしまったルドルフ王を救うため、王と瓜二つの容姿を持つラッセンディルは王の身代わりを努めることに。王妃となる女性との恋だとか、もうそのまま王様でいてもいいんではないかと思わせられるのですが、それでも王の身を案じ、ひたすら忠義を貫くラッセンディルの態度が素晴らしいです。ラストの切ない余韻も良いですね。
 第二部では主人公(語り手)は変わるものの、やはり王と女王への想いを貫くラッセンディル。しかしその結末は――。
 あとがきを読むに、第一部が好評だったので第二部が書かれたそうですが、当時のファンはどんな心境だったのかなぁと思ってしまいました。すれ違いと情報の錯綜でこんがらがる展開は面白いのですが、悲惨な扱いの人物が目に付くのと、どうしようもない哀しさが残ってしまったのでした。

肷

「犬はどこだ THE CITADEL OF THE WEAK」

■今日読んだ本メモ1。
「犬はどこだ THE CITADEL OF THE WEAK」(米澤穂信・創元推理文庫)
犬はどこだ犬はどこだ
 開業にあたり調査事務所<紺屋S&R>が想定した業務内容はただ一種類。犬だ。犬捜しをするのだ。――それなのに舞い込んだ依頼は失踪人捜しと古文書の解読。しかも調査の過程で、このふたつは何故か微妙にクロスして……。
 表紙をよく見ると1とナンバリングされてるので、シリーズの1作目ということらしいです。
 ある理由から犬捜し専門(予定)の探偵となった紺屋長一郎25歳。物語は彼と、押しかけ同然で部下になったハンペーの2人の視点と2つの依頼で進んでいきます。あらすじどおり、一見関係のなさそうに見える依頼がだんだん交錯していくのが上手いなぁと思いました。それが読者にははっきりと分かるのですが、本人たちは惜しいところですれ違ってなかなか気付かない、というのがやきもきさせられつつも楽しませてくれます。
 しかし最後の展開には驚きでした。新米探偵と部下の苦戦が微笑ましいなぁと思ってたら急転直下。ああいう終わり方をするとは意外……。あの人が次回も出てきたら怖いなぁとかなりぞっとしてしまったのでした。犬飼いましょう、犬。

肷

「彼女はたぶん魔法を使う」

■今日読んだ本メモ。
「彼女はたぶん魔法を使う」(樋口有介・創元推理文庫)
彼女はたぶん魔法を使う彼女はたぶん魔法を使う
 シリーズ第1弾。
 元刑事でフリーライターの柚木草平は、雑誌への寄稿の傍ら事件調査も行う私立探偵。今回持ち込まれたのは女子大生ひき逃げ事件。車種も年式も判明したのに車も犯人も見つかっていないという――。
 事件そのものの謎解きよりも、草平が聞き込みをする相手がわずかな例外を除いてほぼ女性ばかりで、ビールおごったりご飯食べに行ったりするシーンの多さの方が気になってしまいました(笑)。モテモテ38歳。でも別居中の妻がいたり(娘もいる)、なのに人妻と不倫してたり、なのに女子大生に振り回されてみたりと……だ、ダメだこの大人! 草平と美女たちとのやり取りを楽しむ作品だなぁと思いました。
 しかし、なんて気になるラストなんでしょう……(笑)。

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